PCをつかってデータ解析をして卒論で使いたい、という学生が一定数いる。経済学部でも心理学部でもない「文系」の卒論レベルでPCでデータ分析をするために必要とされるスキルは、あまり高くはない……と思っている。だが、正直なところ、教え方に苦慮するケースがけっこう多い。統計のごくごく初歩的な部分がわかっていない、みたいなのは、もちろん大問題なのだが、PCのリテラシー的に厳しい水準の学生がすくなくない。
Rでデータを処理する作業を処理する際に、下記のような条件が揃っている学生であれば、PC操作的な部分で時間をかけて教えるのにかかるコストは少ない。
<学生にできれば期待したいスキル>
- 自分のPCがある
- 基本的なPC操作ができる(「ウェブブラウザ」が何であるかはわかる程度でいい)
- 自分でソフトウェアのインストールができる(Officeソフトのインストールができればいい)
- タッチタイピングができる(e typingで、120ぐらいの速度がでる程度でいい)
- 表計算ソフトが使える(「A1」「B3」といったセル指定ぐらいはできる)
- テキストエディタを何度か使ったことがある
- ローマ数字などが機種依存文字であることを理解している
- 「拡張子」を表示した状態でPCを使っている(できれば、CSVを使える)
- プログラミング言語の初歩(最低限、「変数」という考えかたがある、という程度でよい)がわかる。
- コマンド・プロンプトをつかって、カレント・ディレクトリ(フォルダ)の移動ができる。
最初の3,4条件あたりは、ハードルが低すぎないかと思うかもしれないが、残念ながら、学生を教えているとそうとも言えない。
上記を全て満たしていない大学生というのは少なからずいる。残念ながら。
そして、そういった学生にPCを必要とするスキルを教えるコストはかなり高い。
「先生、ウェブブラウザって何のことですか?」という学生さんに、Rのごく簡単なコマンドを教えようと思った場合、Rの操作を教えるためにかかる時間よりも、もっともっと手前のPCの基礎的なリテラシーを教える時間のほうが、長い、ということになる。
スマホ隆盛以降、PCのリテラシ―の低い学生はむしろ増加傾向にあるのだが、どうすればいいのだろうか、という気分がある。
もちろん、こういう学生は、Rどころか、ExcelのSUMとか、IFとかも使えなかったりするので、いきなり、Rを教えて苦手意識を持たれるよりは、まずは、Excelの関数を使えるようになりましょう!ぐらいのところから、段階的にPCのリテラシーを伸ばして持っらっていったほうがいいのかもしれない。ただ、まあ、それは、私の授業単体というか、学部全体のカリキュラム改革に関わる話なので、話がちょっと大きくなるが、いずれにせよ、2020年にもなって、Excelでの足し算引き算のやり方を大学で教えざるを得ない状況というのは、何かに敗北しているという感じがする。個別の学生の責任というよりも、社会全体として、デジタルデバイドを広げないための手立てを十分に講じてこれなかったんだろう、というように思う。
デジタルデバイドを憂う人々は、いわゆる、「PTA的なスマホ禁止」がデジタルデバイドを悪化させる要因ではないかと攻撃してきたという印象がある。
現状では、ある意味で、逆の状況が生じていることは明確にあり、「スマホが便利すぎて、PCを使う必要がない」状況がある。もちろん、これは、ガラケーの頃から生じて現象なので、新しい事態ではないが、ガラケーの頃は、PCとガラケーの利用目的はある程度分かれていたが、PCでできることの大半がスマホでカバーできてしまう。
私としては、学生には、スマホは正直、家庭の経済状況に問題がないのであれば、スマホ禁止して、PCメインでいてほしい、という気持ちが最近、ひそかに湧いてきていて、これって「デジタルデバイド」と言うか、別の言葉で呼んだほうがよい状況のような気がしているが、何か、呼び方があるんだろうか。
私が2012年に書いた本(『ゲーミフィケーション』)とかは、ある意味では、「スマホが現代において極めて有意義な事態を生みだしつつある」みたいな話を書いたものでもあるので、私みたいな人間がスマホを禁止したいと思うというのは、だいぶ皮肉なことではあるんだけれども。今になって、ジットレインの気持ち(※1)がわかってきたという感じでもある。
※1 もっとも、オープンな端末の力が弱くなったことで、インターネットが民主化に及ぼす影響が弱くなったかどうかというのは、よくわからない。どちらかというと、「民主主義の分極化」が促進された、というところだろう。影響力自体は強くなっていると思うが、それが多くの知識人が望ましいと思うようなタイプの影響力ではない、という評価になるのだろう。
追記:
もちろん全ての学生のPCスキルが下がっているわけではなく、学生によっては、リテラシーは上昇しており、全体的なスキルの平均値が著しく下がっているという実感まではない。